BPMの新しい動き、ケースマネージメントとは
最近、BPM業界では急速に「ケースマネージメント」の適用技術が論じられるようになった。しかし、日本国内では未だ馴染みのない用語だ。そこでケースマネージメントの考え方、動向を紹介したい。
ケースマネージメントとは
ケース・マネージメントとは、特定事案(Case)に対する行動計画、適切な実行者のアサイン、行動記録、進捗管理など、一連の管理サイクルを現場レベルで行う概念で、定型ビジネス・プロセスの枠組みに非定型ビジネス・プロセスをサブセットとして連携させ弾力的に業務運用可能にする。図1の例ではケース・マネージメントは、「アドホック、混迷、無秩序な人的活動」のビジネスプロセスをサポートし、これまでのBPM管理概念の領域であった「構造化された人的活動」(ヒューマンセントリック・プロセス)および「システム中心プロセス」(システムセントリック or インテグレーションセントリック・プロセス)を補完する。
図1.ダイナミックBPMプラットフォームの台頭
現在、標準化が進んでいない中、次の15のBPMツールベンダーが何らかのケースマネージメント機能に取り組んでいる。
- Singularity
- Cordys
- Global 360
- Sword (旧Graham Technology)
- Itensil
- TIBCO
- EMC Documentum
- IBM (FileNet)
- BizAgi
- Pallas Athena
- Pega
- Polymita
- HandySoft
- Fujitsu Interstage
- Oracle
定型ビジネスプロセスにダイナミック・プロセスを組み込む富士通製品
その一例として、富士通は図1の概念の一部を自社製品のInterstage BPMで昨年秋に実現している。Interstage BPM V11では、あらかじめ定義したワークフロー内のタスクを現場レベルでさらに詳細なタスクに動的に分割定義、改変でき(taskingという)、進捗管理も可能なダイナミックなBPM機能を備えた。この製品は、「定型プロセス→非定型プロセス→定型プロセスに戻る」といったシームレスなプロセス間連携を提供するのでビジネス・プロセス管理にプロジェクト管理機能を加えた新しい使い方が可能だ。
図2.富士通のダイナミックBPM
ダイナミックプロセスのサポートで現場オペレーションはどう変わるか
ビジネスプロセスに素早い変化対応力が求めらた場合、プロセスモデリングに立ち戻り、分析→設計→実装→実行のパスを上流から段階的に進める方式では遅い場合がある。また、ナレッジワーカーの混沌とした事案対応手順をその都度現場レベルで定義し作業管理したい場合がある。
このようにプロセスを現場レベルでダイナミックに定義、ないし変更できるBPM技術は2点ある。1点目は、ビジネスルールエンジンの利用だ。何らかのビジネスルールが変化した場合、ルールベースに保存しているビジネスルールを即刻変更しビジネスプロセスのフロー制御条件を変える手だ。しかし、この方法はルールのパターンをワークフロー上にあらかじめ定義しておく必要があり、事前定義型プロセスモデリングアプローチだ。2点目は、ケースマネージメントの利用で、実行時にプロセスの実行手順(タスク)を事案ごとに定義することだ。これは事後定義型プロセスモデリングアプローチと言えるものだ。
図3は、双方ともBPMプロジェクトでプロセス再設計、実装、配備といった大がかりな手順を踏まなくても、現場主体で変化対応できる姿を表している。
ただし、現場のオペレーションでルールを定義したり、タスクを定義する作業が必要になり、業務現場の管理者、担当者に「変化対応マインド」がなければ、この技術は生かされないだろう。
図3.素早い変化対応力のある動的業務オペレーション環境
当ブログで最近紹介したガートナー2010年以降5つのBPM予測の中で、ダイナミックBPM適用により現場業務がどう変わるか次のように予測している。
- 2012年までに
企業が直面する20%のプロセスは、BPM技術の支援を受けながら、ナレッジワーカー自身が彼らの要求と好みに応じジャストインタイムでそのプロセスを自己変更できるようになるだろう。 - 2013年までに
ダイナミック BPM の導入は、増大するカオス的業務プロセスに効率を求める企業の緊急命題になるだろう。 - 2014年までに
グローバル2000企業のビジネス管理者、ナレッジワーカーの40%が広範囲に可視化されたビジネスプロセスモデルを日々の作業で使うだろう。2009年は6%に過ぎなかった。
ダイナミック・プロセスのBPMN適用を模索するOMG
OMGは2009年9月にポストBPMN 2.0の主題としてCase Management Process Modeling(CMPM)の仕様提案(RFP)の募集を開始した。BPMN標準に非定型ビジネス・プロセスの可視性を追加する考えだ。このRFPの冒頭に仕様策定の狙いが次のように述べられている。
RFPの目的
本RFPは、ケースマネージメント・プロセスを支援するためのBPMN 2.0メタモデルの拡張提案を求めるものである。ケースマネージメントは、プロセスの実行毎にそれぞれ異なる特定の状況あるいは情勢(ケースという)とそのケースに対する要求成果を持ち、それぞれのケースは、要求成果を達成するサブジェクト(人、訴訟問題、保険請求など)とそれに関連し執行した行動を含む。
ケースマネージメント・プロセスは、デジタル化された知識ベースとして、過去のケースと行動履歴、および現在のケース状況を記録したケースファイルを持ち、そのファイルは複数の文書、あるいは補足的な参照情報の記録から構成される。ケースファイルは意思決定者に助言、気づき、制約、計画支援を提供し、意思決定者はそれをよりどころに、関連する事実を熟考し関連する行動を追跡することになる。
ケースマネージメント・プロセスの自動化は、
- 過去のケース履歴から特定事案のベストプラクティスを学習可能にし、業務遂行者の問題解決能力を高める。
- ケースマネージメント・プロセスの再利用とタイムリーな変更を可能にし、プロセスをより規範的で繰り返し可能な定型業務プロセスに発展させる。
- 適切な記録が確実に維持される手段を提供する。
- 適切な行動をよりタイムリーに発動できる。
- アドホックな(一時しのぎの)プロセスの適切な個所に会社で定められた規則やポリシーを組み込むことを可能にする。
- ケースマネージメント機能を含むビジネスプロセスモデルの交換を可能にする。
ベンダー製品の多くはそれぞれ独自の方法でこれらのニーズに取り組んでいる。しかし、各社固有のケースマネージメント機能が、標準不在のままBPMNプロセスモデルに取り込まれる限り、そのモデルはツール間で交換できず、ユーザーは複数のグラフィック・プレゼンテーションに向き合い、モデリングツールやビジネスプロセス・ランタイムエンジンの選択が制限されることになる。このRFPは、これらの相互運用性の課題解決を対象とすることにある。
この記述から、ケースマネージメントの基本概念は、「ナレッジワーカーの問題解決ケース(事例)を記録し、新たな問題解決に示唆を与え、より適切な行動に導くPDCAサイクルの実現」と定義できる。ケースマネージメントについては論議が始まったばかりで、未だ明確な定義は存在しない。今後はこの分野の標準化が進展することで合意形成が行われるだろう。